イスラム過激派組織「イスラム国」対策に関して、日本はどうあるべきか。
「イスラム国」は「国」という名称を用いているが、彼らは「国」ではない。
なぜなら「国家」として提供すべき、電気、水道、衛生、学校などの公共サービスを提供する能力を持っていないからだ。
そして「住民」に対する治安サービスを提供する兵力の実態は、社会に適合できず、不満を持った外国人の若者と、かつてのイラクの独裁者サダム・フセインを支えた老練なバース党員の寄せ集めというのが実体。
それなのに、なぜ「イスラム国」は、強力で威嚇的に見えるのか。それは、イラク・シリア周囲の国々が「国家」として弱すぎるからだ。実際、「イスラム国」の主要な標的は、実は域外の民主主義国や先進国ではない。イスラム教シーア派だ。現在、起きていることは、スンニ派のサウジアラビアと、シーア派のイランの支援によって煽られ拡大した、両派間の戦いの一部ととらえるのが適切だろう。
「アラブの春」以降、中東から北アフリカに所在する国々の中には脆弱な国家又は破綻国家が増えている。首都周辺の地域しか実質的・有効的に支配できていない国が増えているのだ。
では、中・長期的な解決法としては、どうするべきか。それは、中東地域の国々が自国の体制を整備し、占領地を取り返す能力を獲得することだ。日本はそのような政策に対する支援を行うべきだろう。
一方、短期的には、安定した先進国の中においても、今後、「イスラム国」に影響を受けた若者が、風刺新聞「シャルリー・エブド」で起きたような襲撃事件を企てるだろう。しかし彼らを中東から派生した「国家安全保障上の脅威」と認識すべきではない。ただの「危険な犯罪者」とみなすべきだ。
なぜなら、日本にはスンニ派とシーア派の戦争に関して、どちらか一方に肩入れする理由はない。したがって、我が国が持つ選択肢としては、この紛争が他の国々にあふれ出さないようにし、可能な限り、罪のない人々を虐殺から保護することだ。
その意味で、とるべき最適な政策は「封じ込め」である。つまり、「イスラム国」であれ、アサド政権であれ、一つの勢力がこの地域を思いのままに操ることができるほど強くならないようにするべきである。
「アサド政権打倒」や「イスラム国破壊」など、およそ達成できそうもない政策目標を設定するのを避け、これらの勢力を互いに敵対させる。我々は恒久的な味方も敵も作らず、時に応じて異なる当事者と協力したり対抗したりする柔軟性を維持する。これが我が国にとって最適な戦略・政策だろう。
現在、開会中の国会審議で「イスラム国」による日本人人質誘拐・殺人事件について、交渉経緯や経過についての質問・追及が続いている。しかし、公開を原則とし、非公開セッションのない我が国の国会質疑において、細部にわたる国家としてのテロ組織との交渉経緯や対テロ戦術について論議することは適当ではない。
なぜなら、今後、同じような事態が起きたときに、我が国の交渉の「手の内」をさらすようなことは、テロ組織を利するだけだからだ。交渉経緯は、特定秘密として指定し30年後に公開するというのが妥当なところだろう。
一方、今回の人質事案の経緯について振り返ると、1月下旬、「イスラム国」は突如インターネットを通じて日本人人質を拘束していることを表明し、途方もない金額(2億ドル、約240億円)の身代金を要求してきた。後から明らかになった事実では、昨年8月と10月に日本人を人質としたことが日本政府に通知され、既に水面下で交渉を開始していたという。
それらを踏まえると、1月下旬に突如、インターネット上に途方もない要求額を公表してきた時点では、既に日本国政府との交渉は決裂し、「イスラム国」は邦人2名の殺害を決めていたというのが正しい見立てだろう。
テロ組織との交渉において、国家は、テロには決して屈しないという国家としての「立場」と、国民の生命を守るという「義務」の、本質的に正反対の矛盾の中から、短い時間的制約の中でどちらか一方を選ばなければならない。そのために必要不可欠のものが「情報」である。今回の人質事件の交渉過程では、十分な情報がなかったため交渉が決裂に至ったのだと推察される。
なぜなら、一昨年末、ようやっと「日本版NSC」が設立され、国家としての意思決定のスピードは上がったものの、国家としての「情報機関」がいまだ未整備のままだ。「日本版NSC」設立が果たされた今、本来なら主要国が必ず持っている「中央情報局(日本版CIA)」が必要だ。国際テロや大量破壊兵器、諸外国の政情などの海外情報を収集、分析するための専門機関であると共に、政府として持つ情報の収集と一元化を担う組織だ。
国家としての情報の収集と一元化は、情報機関同士の「調整」や「要請」ではどうにもならない。トップダウンにより各情報機関から強制的に情報を出させる措置が必要だ。これはアメリカが10年前に行った行政部門改革で国家情報官(DNI)を設立した経緯を見れば明らかだ。
また、現状では日本は海外で危機にさらされた自国民を自力で救出するという、国家としては当たり前の対応をとれない。「日本版CIA」を持つことはもちろんのこと、そろそろ自らの力で自国民を救出するという手立てを選択肢として持つことを検討する時期がきたのではないだろうか。それが国家としての「交渉力」を増すことになるのだから。
長期間、赤坂迎賓館で綿密な準備を行ってきた日本・ASEAN(東南アジア諸国連合)特別首脳会議(サミット)が終了した。
今年は、日本とASEANとの友好協力40周年。安倍総理は年頭に「対ASEAN外交5原則」を訪問先のジャカルタで発表するとともに、11か月の間にASEAN加盟国10カ国すべてを訪問した。
10カ国すべてを訪問したのは日本の総理として初めてのこと。近年、日本の総理によるASEAN諸国訪問は、マルチの国際会議の機会以外、殆ど行われておらず、異例のことだ。
この意味で安倍総理のASEAN諸国歴訪と、その総括となる東京で開催された日ASEANサミットは、日本が東南アジアを重視する姿勢を対外的に示すことができたといえよう。
また、今回、東京で行われた日ASEANサミットは開催のタイミングが絶妙だった。
図らずも中国による「防空識別圏」の設定が東アジア地域諸国に波紋を投げかけている時期であり、東シナ海、南シナ海での「航行と飛行の自由」について、ASEAN諸国と首脳レベルで認識を一致させることができた。
2013年は対東南アジア諸国外交で大きな外交上の成果を上げることができた。
2014年も対中国・韓国を始め、様々な外交上の課題が浮上するだろうが、「近抗遠友」の外交原則にのっとり、東南アジア諸国とは益々友好関係を深めていくことになるだろう。
久しぶりに映画館で映画を見た。 「ゼロ・ダーク・サーティ」。
CIA分析官・マヤがオサマ・ビン・ラディンの居所を突き止め、追い詰めるまでの、実話を元にした映画。
マヤはCIAの上司とぶつかりつつも、10年以上にわたる執拗な調査・分析を続け、ついにビン・ラディンにつながる手がかりを捕捉。最終的には、マヤの分析結果を信じた大統領の決断により、米海軍特殊部隊SEALSによる突入作戦が行われ、ビン・ラディンは殺害された。
通常、こういった映画では突入を行った特殊部隊の活躍が中心に描かれ、裏方である情報分析官の話が表に出ることはめったにない。しかし、本作では(国家機密にあたるのではないかという部分も含め)CIAの情報収集・分析手法が詳細に紹介されているのが特徴だ。
携帯電話から発射される電波から調査対象の位置を特定。その後、追跡・尾行により本拠地を割り出し、偵察衛星と無人機による監視活動を100日以上続けることにより、アルカイダ幹部が所在すると断定する。
本作でこういった分析手法を明らかにしてしまったので、今後はテロリストを追い詰めるのに同様の手法を使うことはできない。
だが、逆に言うと、既に他の更に有効な手段を持っているからこそ、アメリカ政府は本作の映画化を許可したわけであり、アメリカという国の懐の深さを感じる。
被疑者に対する拷問を肯定しているといった観点から、批判も多い本作だが、アメリカという国の「凄さ」と「恐ろしさ」を同時に感じることができる本作は、ぜひ一度見ることをお勧めしたい。
2月13日付け読売新聞は以下のように伝えている。
『 米国とタイ、日本、インドネシアなど7か国による東南アジア最大級の合同軍事演習「コブラ・ゴールド」が11日、タイ北部チェンマイなどで始まった。
今回の演習には、民主改革の推進に伴い米国との関係改善が進むミャンマーが、オブザーバーとして初参加した。
21日までの期間中、約1万3000人が参加。軍事演習では、多国籍部隊の運用能力を強化するため、上陸作戦を想定した訓練などが行われる。日本の自衛隊は在外邦人の輸送訓練などを実施する。
今回、沖縄県の米軍普天間飛行場に配備されている新型輸送機MV22オスプレイが初めて投入されており、飛行ルートの確認や低空飛行訓練などを行う。』
2月5日23時、時事通信社は以下のニュースを配信した。
『 防衛省は5日、中国海軍のフリゲート艦が1月30日に東シナ海で、海上自衛隊の護衛艦に射撃用の火器管制レーダーを照射したと発表した。同レーダーは射撃前に目標に照準を合わせ、追尾するもので、海自を威嚇したものとみられる。
小野寺五典防衛相は5日記者団に、「大変異常なことで、一歩間違うと危険な状況に陥る。極めて特異な事例だ」と述べた。防衛省幹部によると、護衛艦は沖縄県・尖閣諸島周辺の公海上で警戒監視に当たっていた。
安倍晋三首相からは「しっかりと対応し、外交ルートでこのような事態が発生しないよう抗議するように」との指示があったという。外務省は外交ルートを通じて中国側に厳重抗議した。 』
「レーダー照射」は、既に各メディアで報道されているとおり、限りなく「武力行使」に近い意味を持つ。(ちなみに陸上戦闘においては、相手が小銃で直接こちらを「照準」しただけでも、“正当防衛・緊急避難”のための「反撃」が許される。)
そういった意味からも、かなりインパクトは大きいのであるが、今回の事案は、中国人民解放軍の現場レベルの将校が、中央政府の意向なくして先走ってしまった行動であろう。中国政府としての国家意思に基づいた行動ではない。
したがって、本来であれば、防衛省から外務省が本事案の通報を受けた時点で、秘密裏に中国側と接触し、国際社会に公にしないような処置を約束するべき事案だった。
なぜなら、現下の国際法では最初に軍事行動をとった国は国際世論からの支持を失い、「戦わずして負ける」ことになる。今回の事案を公にしないことを約束することで、じ後の外交交渉において尖閣問題に関する「有利なカード」として使用できたに違いない。
しかし、今回は防衛省から外務省への通報が公表直前のタイミングだったことで、そのような外交上の駆け引きを行うことができなかったという。そしてこの事態を受けて、現在、日本政府がとっている対応は外交ルートを通じた「厳重抗議」にとどまっている。
しかし、いまだ、現在においても、日本政府は外交上、有利な立場にある。
速やかにこの“敵失”を国際社会に訴え、大々的に宣伝するべきだ。世界の関心を集め、中国海軍の行動について非難するとともに中国海軍当事者(軍人)の処分を求めるべきだ。
こうすることによって、これ以上中国海軍が軍事的行動をエスカレートできないように牽制するとともに、日本政府が平和を希求し、「力」による威嚇に対しても「力」では応じないことを全世界にアピールできる。
Stray Soldier